ユーロリーグの新シーズンが始まりました。日本でも開幕の熱気が広がり、NBAはプレシーズンへ。バスケットボールを見る時間が、いくらあっても足りない季節です。
そのなかで、今年ぜひ目を向けてほしいのが欧州のクラブ最高峰、ユーロリーグです。スターの名前を知らなくても大丈夫です。一本のパスで守備が崩れ、ボールに触れていない選手が試合を動かす。その面白さが分かると、いつものバスケの見え方まで変わります。
Bリーグが掲げる「世界2位」を考えるうえでも、欧州の存在は避けて通れません。今回は大会の仕組みから戦術、選手が欧州を選ぶ理由、そして注目の4クラブまで、コーチングの視点で掘り下げます。

ユーロリーグとは?まず押さえたい大会の仕組み
2026-27シーズンは9月24日に開幕し、20クラブがホーム&アウェーで38試合を戦います。上位6クラブがプレーオフへ進み、7〜10位がプレーインで残る2枠を争います。プレーオフは3勝先取。その先のファイナルフォーは、一発勝負の準決勝と決勝です。
ただし、各国の優勝クラブだけを集めた大会ではありません。長期ライセンスやワイルドカードなどの参加枠があり、国内リーグの順位だけで出場が決まるわけではないのです。代表チームの大会でもなく、あくまでクラブ同士の戦いです。
それでも、街の歴史や文化がコートに持ち込まれるような熱量があります。同じ国の宿敵に負けられない。ホームの観客を失望させられない。ユニフォームの背後にあるものまで伝わってくるのが、この大会の魅力です。
38試合だからこそ、一つの取りこぼしが響く
NBAのレギュラーシーズン82試合に対し、ユーロリーグは38試合です。一敗が順位に占める比重は大きく、上位6位とプレーインの境界では、序盤の取りこぼしも後に響きます。
もちろん、全試合が接戦になる仕組みではありません。大差がつく日もあります。大切なのは、目の前の一勝を取りにいく切迫感が生まれやすいことです。短い時間帯の守備の乱れにも、ベンチは敏感に反応します。
一方、選手には国内リーグやカップ戦もあります。「38試合だから身体が楽」とは言えません。異なる大会を並行して戦いながら、どこで練習し、誰を休ませ、どの組み合わせを育てるか。ここにもコーチの仕事が表れます。
なぜユーロリーグは戦術が面白いのか
ルカ・ドンチッチは2022年、NBAには優れた個人ディフェンダーがいる一方、欧州ではチームディフェンスが優れているという趣旨の話をしています。これは「NBAの守備は弱い」という意味で受け取るべきではありません。
コートの広さや守備のルールが違えば、攻める側が使える空間も変わります。ユーロリーグにはNBAのような守備の3秒ルールがなく、リング付近に守備者が残りやすい。その密集を、個人技だけで毎回突破するのは簡単ではありません。
そこで必要になるのが、5人で守備を動かす作業です。最初のスクリーンで得点できなくても、逆側へパスを出し、次の選手が止まらずに攻める。最初のプレーの成否より、その後も有利な状況をつなげられるかが問われます。
ボールを持たない選手を見ると、試合が変わる
例えば、味方がドライブしたときにコーナーで待つのか、ゴールへ切れ込むのか。同じ移動でも、早すぎれば味方の進路をふさぎ、遅ければパスの窓が閉じてしまいます。
こうした判断を5人でそろえるには、戦術図だけでは足りません。相手がどこから助けに来るか、味方が何を見ているかを共有する必要があります。練習の質は、派手なセットプレーより、その小さなタイミングに出ます。
守備も同じです。最初に抜かれた選手だけを見ていると、その後の連係を見逃します。誰がドライブを止め、誰が空いたシューターへ走り、誰がリバウンドを確保するのか。シュートが入ったかどうかの前に、この役割分担を見てみてください。
コービーの言葉から考える、基礎の価値
イタリアで育ったコービー・ブライアントは、2007年のFIBAのインタビューで、欧州のクラブの試合を見ながら基礎を学んだ経験を語っています。現在のリーグ同士の優劣を断じた言葉ではありませんが、育成を考えるうえで示唆があります。
基礎とは、誰にも邪魔されない状態でシュートやドリブルができることだけではありません。守備を見て止まり、パスを選び、次の位置へ動く。技術を試合の判断につなげて初めて、チームの力になります。
若手に自由を与えるなら、同時に判断の基準も渡したいところです。「積極的に攻めろ」で終わらせず、どの状況なら攻めるべきだったかを一緒に振り返る。ユーロリーグは、その教材になる場面が豊富です。
Bリーグの「世界2位」に立ちはだかるもの
Bリーグは2036年に向け、事業面と競技面の両方で世界2位を目指す方針を示しています。大きな目標を掲げることには意味があります。ただ、競技力の面で欧州のトップを越える道のりは、相当に厳しいと考えます。
そもそも、複数の国の強豪が集まるユーロリーグと、日本の国内リーグを同じ物差しで順位づけするのは難しい話です。売上、選手の質、育成、国際大会での成果。何をもって2位とするのかを分けなければ、議論が曖昧になります。
それでも、欧州の強豪が日常的に戦っている相手の水準と、長年蓄積してきたコーチングの厚みは重い基準です。有名選手を獲得し、アリーナを整えるだけで、その差が自然に埋まるわけではありません。
比べたいのは、苦しい時間帯のバスケット
注目したいのは、エースの得点が止まったときです。相手が最初の攻め方を消してきても、チームに次の選択肢があるか。交代選手が入っても、守備の約束やボールの動きが続くか。ここに組織としての力が出ます。
若手育成も、出場時間の合計だけでは測れません。接戦で守る相手を任される。相手の守備を読んでパスを選ぶ。失敗した後に、次の試合で同じ判断へ挑む。そうした責任を伴う経験を、どれだけ積めるかが重要です。
Bリーグが学べるのは、特定のセットプレーの形以上に、その判断を育てる日常です。選手の成長と目先の勝利をどう結びつけるか。世界2位という目標は、現場の練習や起用まで掘り下げてこそ意味を持ちます。
NBA経験者が欧州を選ぶ理由とサラリーの変化
欧州へ戻る選択を象徴する一人が、ニコラ・ミロティッチです。NBAで5シーズンを過ごし、2019年にバルセロナへ加入しました。NBAでプレーした後のキャリアにも、複数の魅力的な道があることを示した移籍でした。
今季の注目クラブにも、エバン・フォーニエやサーシャ・ヴェゼンコフなど、NBAを経験した選手がいます。選手にとって価値があるのは所属リーグの名前だけではありません。出場時間、攻守の役割、優勝争いにどう関わるかも大きな要素です。
終盤にボールを託され、クラブの顔として責任を負う。その仕事に魅力を感じる選手がいても不思議ではありません。ただし、個々の移籍理由は異なるため、全員がお金や出場時間だけで決めたと断定はできません。
契約額は、数字の前提まで見る
Eurohoopsの2026-27シーズンの報道では、トップ層に年額数百万ドル規模の契約が並びます。欧州の有力クラブが、NBA経験者に大きな経済的条件を提示できる市場になっていることは見逃せません。
一方で、報道される金額は公式発表とは限りません。欧州では手取りベース、NBAでは税引き前の金額が使われることもあり、そのまま比較すると実態を誤ります。国ごとの税制や契約期間も関わります。
「NBAで最低年俸なら欧州の方が必ず得」とまでは言えません。それでも、報酬と役割の両方を求めて欧州を選べることは、ユーロリーグの選手層を厚くする要因になります。
注目① パナシナイコス|オブラドビッチ帰還で開幕3連勝

今季の大きな話題が、ジェリコ・オブラドビッチのパナシナイコス復帰です。クラブに黄金期を築いた指揮官が戻り、チームは開幕3連勝。第3節ではマッカビ・テルアビブに90対67で勝利しました。
故障者の影響を受ける時期にも結果を出している点は見逃せません。オブラドビッチはマッカビ戦後、ナイジェル・ヘイズ=デイビスの復帰や、十分な人数で練習できる機会について触れています。完成形にはまだ余地があるなかでの好発進です。
コーチングの視点では、欠場者の得点を誰か一人が埋めること以上に、残った選手で役割を組み直せるかが重要です。主力が欠けても迷いが増えないチームには、プレーの優先順位を共有する土台があります。
厳しさよりも、要求の一貫性を見る
オブラドビッチと聞くと、ベンチでの激しい表情を思い浮かべる人もいるでしょう。ただ、指導を学ぶ側がまねたいのは声量ではありません。何を許さず、何を選手に任せるのか、その基準です。
例えば、シュートの失敗と守備への戻りの遅れは、同じミスではありません。挑戦した結果と、チームの約束を果たさなかった結果を区別できているか。今季のパナシナイコスでは、選手交代やタイムアウト後の変化にも注目したいところです。
王者オリンピアコスにとって、好発進した宿敵の存在は大きいはずです。ただし、まだ3試合。復帰直後の勢いが、長いシーズンを支える再現性へ変わるかを見ていきたいです。
注目② オリンピアコス|王者の美しさを支える連係
オリンピアコスは2026年の決勝でレアル・マドリードを92対85で破り、欧州王者に返り咲きました。指揮するのはギリシャ人のヨルゴス・バルツォカスです。クラブは契約を2029年まで延長し、継続路線を明確にしています。
中心として注目したいのが、エバン・フォーニエと、ブルガリア代表のフォワード、サーシャ・ヴェゼンコフです。個人で得点できる選手がいるからこそ、誰かの攻撃を残り4人が眺める時間を減らせるかが、チームの強さを左右します。
オリンピアコスを見る面白さは、シュートを打った選手の前にあります。守備を引きつけた動き、次のパスを出しやすくした立ち位置、味方を空けるスクリーン。得点者以外の働きを追うと、攻撃の美しさが具体的に見えてきます。

モンテロ加入で、組織に新たな突破力を
新戦力のジャン・モンテロは、ドミニカ共和国出身のガードです。バレンシアから加入し、クラブは3年契約を発表しました。ガード陣に異なる攻撃の選択肢を加える補強として注目です。
チームでボールを動かしても、守備が崩れない場面はあります。そこで一人がペイントへ入り、守備を収縮させられれば、次のパスの価値が上がります。組織的な攻撃と個人の突破力は、互いを助ける関係にあります。
見たいのは、モンテロが自分で攻める場面と、周囲を使う場面の切り替えです。王者の共通理解に新戦力がどう加わるか。パナシナイコスとの対決は、その完成度を測る楽しみな機会になります。
注目③ レアル・マドリード|新しい速さは根づくか
昨季準優勝のレアル・マドリードは、ペドロ・マルティネスを新ヘッドコーチに迎えました。バレンシアを率いていた指揮官との契約は2029年まで。頂点を逃した名門が、チームの方向を変える決断をしました。
ところが、ユーロリーグの開幕は3連敗。第3節のハポエル・テルアビブ戦も98対102で落としました。タレントがそろっていても、新しいバスケットがすぐに機能するわけではないことを感じさせる出発です。
注目したいのは、ボールと人を止めず、連続して守備に判断を迫る攻撃です。ここではその特徴を「リレントレス=手を緩めない」と捉えたいと思います。ただ走るだけでなく、次のアクションへ移る速さが問われます。
ベテランの判断と、新しいテンポの接点
速い攻撃を根づかせるには、選手が動き出す合図をそろえる必要があります。一人が走り、別の選手がセットを待っていては、コートが分断されてしまいます。ベテランの経験も、新しい約束の共有と組み合わさってこそ生きます。
さらに、攻撃のテンポを上げるなら、失った後の守備も準備しなければなりません。誰がリバウンドへ行き、誰が戻るのか。攻撃の華やかさと守備の安定は、同時に設計する仕事です。
3連敗だけで失敗と判断するのは早いでしょう。今後は勝敗に加え、同じ種類のミスが減っているかを見たいです。苦しい立ち上がりから、歴戦の選手たちが新しい共通言語をつくれるか。今季の興味深いテーマです。
注目④ ASVEL|トニー・パーカーが教える側へ

フランスのASVELでは、トニー・パーカーがヘッドコーチに就任しました。クラブ運営に携わってきた元NBAの名ポイントガードが、日々の練習と試合の采配を担う立場に進んだことは、大きな注目点です。
ただし、名選手だったことと、選手を育てる力は同じではありません。自分なら感覚的にできたプレーを、経験の少ない選手にも伝わる言葉や練習へ変えられるか。新しい仕事では、そこが問われます。
パーカーが見ていた守備のずれを、選手はまだ見つけられないかもしれません。そのときに答えを教えるだけでなく、どこを見るべきかを伝えられるか。ガード育成という視点でも、興味を引かれる挑戦です。
育成の成果は、次の判断に表れる
就任報道では、長期的な成長や勝つ文化づくりが語られています。育成を掲げるチームを見るなら、若手が失敗した直後だけでなく、その後の起用とプレーまで追いたいところです。
ミスを振り返り、練習し、再び任される。その循環があれば、出場時間は学ぶ時間になります。反対に、何が求められているか分からないままでは、若手は安全なプレーしか選べなくなります。
ASVELでは勝敗とともに、選手の判断がシーズンの中でどう変わるかを見ていきたいです。パーカーが自分の経験を、チーム全体で使える知識にできるか。その過程そのものが見どころになります。
今季は、一本のシュートの「前」を見てほしい
初めてユーロリーグを見るなら、まずはこの4クラブから気になる一つを選んでみてください。復帰した名将、連覇を目指す王者、変革に挑む名門、新米ヘッドコーチ。それぞれに違う物語があります。
そして得点場面を見返すときは、シュートの一つ前、そのさらに前の動きを追ってみてください。誰が守備を動かし、誰が味方のために場所を空けたのか。そこに気づくと、スコアだけでは伝わらないバスケットボールが見えてきます。
World Hoop Labでは今後も、ユーロリーグのチーム、選手、戦術を定期的に掘り下げていきます。欧州バスケが好きな方も、これから見始める方も、一緒に新しいシーズンを楽しんでいきましょう。
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出典・参考資料
情報は2026年10月5日時点。開幕成績は第3節終了時点です。戦術・育成に関する評価は、上記の事実を踏まえたWorld Hoop Labの考察です。
EuroLeague公式:2026-27シーズン日程・大会方式
EuroLeague公式:2026-27参加クラブとライセンス
FIBA:コービー・ブライアントへのインタビュー(2007年)


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